七星ちひろ関連RPQログ
RPQ登場人物
ヘイゼル
初出:オブリガティオネ・アンゲロルム1
冷架団長にスカウトされて所属した組織所属のアークス。皆さんご存知
ミズハ
初出:オブリガティオネ・アンゲロルム2
自称ヘイゼル最大の好敵手。騎士団に依頼を出し、興味が湧いて所属するに至った
セロ
初出:オブリガティオネ・アンゲロルム3
ヘイゼル、ミズハが所属する組織の長。二人を介して依頼を出す事もある
アンナ
初出:オブリガティオネ・アンゲロルム3
組織の末端。騎士団の皆に教育道具を買って貰えた
リンカ
初出:ディサステル・クロックウォルク
ヘイゼルの師でミズハの姉。組織の最高幹部で凄腕の工作員。
アドラー
初出:Doogie One
アンナの教官。キャストの教導を一手に引き受ける。
下記は組織に関する相関図(16/11/21現在判明のもの)
メインシナリオ
オブリガティオネ・アンゲロルム1
参加者 ヘイゼル、来ヶ谷冷架、さきちゃお
活動地域 惑星ナベリウス・遺跡エリア
オープニング
「あら、セロ。其方から通信なんて珍しいわね」
マイルームにて少しの休息を取っていたヘイゼルの耳に、恩人の声が届いてきたのはつい先程。
彼女の耳に通っている通信機器の先から聞こえるのは僅かに嗄れた女の声。
「うむ、ヘイゼル……お前に仕事を依頼したい」
「普段のノルマはこなしているはずよぉ?」
「最近どうにも仕事が多く回ってきていてな。他の奴らにも頼んではいるんだが……どうだ。やってみてくれんか」
ふむと彼女は考えを巡らす。
私の雇い主なのだし受けるのが道理だろう。
しかし彼女は今まで振り込まれた仕事を思い出す。普通のアークスがやるような荒事ならまだしも、中々曲者な依頼も多いのがこの組織の厄介な点なのだ。
前にバニーガールに扮し闇カジノへ潜入、情報を収集しろ。という仕事は特にひどかった。単独行動は苦手とはしていないが、自分の扱いやすい武器や道具を使わずに危険な取引場所で行動する……なんとか仕事は成功させたが、いい思い出も余りないので似た仕事は気持ちが乗らないのだ。
その仕事で耐性が付いたのか、露出の多いアークスの服装も気にせず着用できるようになったのが収穫かもしれない。
「……言っておくが、今回は簡単なデータ採取と討伐任務だ」
沈黙に業を煮やしたのかセロが口を開く。
「惑星ナベリウスに発生しているダーカーのデータを取得してもらいたい。普段とは違うアークスの状況に、ダーカーはどう反応するのか……というのを検証したいそうだ」
「ふぅん、ほんとに普通の仕事みたいね」
「お前も忙しい身だろうからな。どうだ」
「えぇ、いいわよ。そのオーダー受けるわぁ」
安心したのか二つ返事で了承する。
元々仕事をこなすのも恩のある彼の為であるし、その人が依頼してきた仕事を断る考えがヘイゼルにはなかった。
自分にとって覚悟が必要なイヤな仕事か否か。判断基準はそれだけであった。
「ありがとう。ではそちらに仕事の情報を送信する。先方からは必須のデータ以外にも、有用なものがあれば追加報酬で受け取るらしいからな。留意しておいてくれ」
「了解」
セロとの通話回線が切られる。直後、通信機からホログラムで依頼内容の情報が表示された。
場所は惑星ナベリウス遺跡エリア。研究対象エネミーはキュクロナーダ、サイクロネーダ、ゼッシュレイダ……。
そして特別な状況を作り出す条件が映し出される。
情報を見たヘイゼルは、眉間に皺を作ってぽつりと口を開いた。
「これは……皆に協力をお願いしてみようかしらねぇ……」
マイルームにて少しの休息を取っていたヘイゼルの耳に、恩人の声が届いてきたのはつい先程。
彼女の耳に通っている通信機器の先から聞こえるのは僅かに嗄れた女の声。
「うむ、ヘイゼル……お前に仕事を依頼したい」
「普段のノルマはこなしているはずよぉ?」
「最近どうにも仕事が多く回ってきていてな。他の奴らにも頼んではいるんだが……どうだ。やってみてくれんか」
ふむと彼女は考えを巡らす。
私の雇い主なのだし受けるのが道理だろう。
しかし彼女は今まで振り込まれた仕事を思い出す。普通のアークスがやるような荒事ならまだしも、中々曲者な依頼も多いのがこの組織の厄介な点なのだ。
前にバニーガールに扮し闇カジノへ潜入、情報を収集しろ。という仕事は特にひどかった。単独行動は苦手とはしていないが、自分の扱いやすい武器や道具を使わずに危険な取引場所で行動する……なんとか仕事は成功させたが、いい思い出も余りないので似た仕事は気持ちが乗らないのだ。
その仕事で耐性が付いたのか、露出の多いアークスの服装も気にせず着用できるようになったのが収穫かもしれない。
「……言っておくが、今回は簡単なデータ採取と討伐任務だ」
沈黙に業を煮やしたのかセロが口を開く。
「惑星ナベリウスに発生しているダーカーのデータを取得してもらいたい。普段とは違うアークスの状況に、ダーカーはどう反応するのか……というのを検証したいそうだ」
「ふぅん、ほんとに普通の仕事みたいね」
「お前も忙しい身だろうからな。どうだ」
「えぇ、いいわよ。そのオーダー受けるわぁ」
安心したのか二つ返事で了承する。
元々仕事をこなすのも恩のある彼の為であるし、その人が依頼してきた仕事を断る考えがヘイゼルにはなかった。
自分にとって覚悟が必要なイヤな仕事か否か。判断基準はそれだけであった。
「ありがとう。ではそちらに仕事の情報を送信する。先方からは必須のデータ以外にも、有用なものがあれば追加報酬で受け取るらしいからな。留意しておいてくれ」
「了解」
セロとの通話回線が切られる。直後、通信機からホログラムで依頼内容の情報が表示された。
場所は惑星ナベリウス遺跡エリア。研究対象エネミーはキュクロナーダ、サイクロネーダ、ゼッシュレイダ……。
そして特別な状況を作り出す条件が映し出される。
情報を見たヘイゼルは、眉間に皺を作ってぽつりと口を開いた。
「これは……皆に協力をお願いしてみようかしらねぇ……」
リザルト
Result:Aランク
注文通りのキュクロ、サイクロ、ゼッシュのサンプル取得には成功
さきちゃおの指摘したエルダーのサンプルは、特定状況下ではないので効果なし)
暴れまわる亀を模した異形の怪物、ゼッシュレイダ。
その周りには空間を駆け抜け、銃を撃ち放ち、魔法の如き光を繰り出すそれぞれの影が付随した。
出した仕事をこなす部下のヘイゼル、協力者と聞いた来ヶ谷冷架とさきちゃお。
中々どうして、制約の多い依頼内容であったはずだが、三人は小気味よく対応している。黒き巨体もすぐに沈黙、目の前の映像はここで終わった。仕事の成果報告である。
端末の先から気配がする。私の声を待つ彼女の。
「で……これだけが報告か?」
私が出した結論は『最低限の仕事はこなしてくれた』である。
依頼主に対してよい回答をできるので頼んだ甲斐はあったものだ。
これからもヘイゼルには騎士団とやらで活動してくれるなら、多少やりやすくはなる。
「えぇ~、ちょっとセロ。せっかく頑張ったのに、その言い方はないんじゃない?」
「なーにが頑張った、だ。お前より二人のほうがアクティブだったぞ」
「だってそれは、私フォースだったし。近接クラスより動けないわよう」
「それは言い訳だ。お前がメインだろうに」
反応は予想通り。まぁ私が褒める事など殆どないし、あいつも心の中では納得してるだろう。
「んじゃ、私からの報告は終わり。後はお任せするわねぇ」
「あぁ、お疲れさん。報酬はそちらに送っておく。協力してくれた二人にも労ってやれ」
「はいはい。それじゃまた何かあったら、よろしくねぇ」
そこで通信は切れる。
端末を操作し依頼主への報告書作成に移る。ここからは私の仕事。これも孤児院を運営する為に必要なことだ。
しかし、さて、次は彼女達にどんな仕事をして貰おうか。
注文通りのキュクロ、サイクロ、ゼッシュのサンプル取得には成功
さきちゃおの指摘したエルダーのサンプルは、特定状況下ではないので効果なし)
暴れまわる亀を模した異形の怪物、ゼッシュレイダ。
その周りには空間を駆け抜け、銃を撃ち放ち、魔法の如き光を繰り出すそれぞれの影が付随した。
出した仕事をこなす部下のヘイゼル、協力者と聞いた来ヶ谷冷架とさきちゃお。
中々どうして、制約の多い依頼内容であったはずだが、三人は小気味よく対応している。黒き巨体もすぐに沈黙、目の前の映像はここで終わった。仕事の成果報告である。
端末の先から気配がする。私の声を待つ彼女の。
「で……これだけが報告か?」
私が出した結論は『最低限の仕事はこなしてくれた』である。
依頼主に対してよい回答をできるので頼んだ甲斐はあったものだ。
これからもヘイゼルには騎士団とやらで活動してくれるなら、多少やりやすくはなる。
「えぇ~、ちょっとセロ。せっかく頑張ったのに、その言い方はないんじゃない?」
「なーにが頑張った、だ。お前より二人のほうがアクティブだったぞ」
「だってそれは、私フォースだったし。近接クラスより動けないわよう」
「それは言い訳だ。お前がメインだろうに」
反応は予想通り。まぁ私が褒める事など殆どないし、あいつも心の中では納得してるだろう。
「んじゃ、私からの報告は終わり。後はお任せするわねぇ」
「あぁ、お疲れさん。報酬はそちらに送っておく。協力してくれた二人にも労ってやれ」
「はいはい。それじゃまた何かあったら、よろしくねぇ」
そこで通信は切れる。
端末を操作し依頼主への報告書作成に移る。ここからは私の仕事。これも孤児院を運営する為に必要なことだ。
しかし、さて、次は彼女達にどんな仕事をして貰おうか。
オブリガティオネ・アンゲロルム2
参加者 ヘイゼル、来ヶ谷冷架、テュア、イヴ
活動地域 惑星ナベリウス・遺跡エリア・先遣地域
オープニング
アークスには其々決められた家が支給される。
マイルームというそれに、ヘイゼルは備え付けられたベッドで横になっていた。脇にはフライドポテトと甘ったるいジュース。
空中の一点を見つめる視線に、集中という概念を探す事はできない。
「はぁ……最近する事ないわねぇ」
「ほう?ならさっさと仕事のノルマを出すんだな」
弛緩した声を被せて埋める、険のある幼い声。
「んげ!セ、セロ?あ~……仕事仕事……」
突然のホログラムを介した通信にヘイゼルは狼狽する。だらしのない姿を上司に見咎められたのが問題ではない。勿論それもあるのがだが、自分の使命をすっかり忘れていた、その一点が重く心に圧し掛かる。
ヘイゼル達が所属する組織は、人助けを生業としている。
彼女自身、人を助ける事でどうやって日々のメセタや食料を入手できるのかは知らない。組織の長であるセロへ一ヶ月に一回、自分の仕事を報告書として提出し成果に応じた報酬を貰う。長く行っているので、そういう疑問をはさむ事も無かった。
但し嘘の報告は全くと言っていいほど通用しない。
どういう事か嘘の報告はその場で見破られ、それでも押し通そうとするものなら数日後に状況証拠を揃えられ看破されてしまうのだ。
そして嘘報告を行った者と、一人ひとりに割り当てられるノルマをこなせなかった場合はオシオキが待っているのであった。
「お前は有能ではあるんだが、所々気が抜けているからなぁ」
溜息混じりに話すホログラムの先の上司が鬼に見えてくる、そんなレベルのキツイ所業。
早く報告書を添付し送ってこい、そう愚痴りつつ待っているセロにどうやって釈明しようか、冷や汗を流しながら考える。
そんな事でアイディアは湧かない。現実は非情である。
覚悟を決めて謝罪しよう、そう決した時ヘイゼルの後ろにあったマイルームの扉が開いた。
「セロさんさー、あんまヘイゼル脅しちゃダメですよ?こいつだけ呼び捨てなのが気に入らないかもだけど」
突如私の後ろにあった扉が開いて出てきたのは、褐色肌の同僚だった。
名はミズハ。ミズハ・ケルベロス。
同僚と言っても私より見た目も年齢も低い、しかし地位は私より高い。
あっけに取られた私をよそに、そいつは通信先のセロと会話を続ける。
「ヘイゼルの報告が遅いのはいつもの事でしょう。それに、所属してる騎士団の活動で忙しいようですし」
「ん……蒼月なんたら、だったか?仕事外の動きは自由だが、それで支障が出るようなら困るぞ」
「それが実益にもなっているようですね……ウォパルとナベリウス壊世地域で一人ずつ、救出活動もしたみたいです」
ほう、とセロが少し驚いた表情をする。
人の命を助けることは、人助けの中で最も査定が高い。そのようなシチュエーションに遭遇する事自体珍しいのもあり、数がこなせない故に高く設定されているんだろうけど。
ならなんでさっさと報告しないんだ、と続けてセロの言葉。そりゃそうだ。
「いや~……騎士団での活動が忙しくてねぇ」
「らしいですね。騎士団さんの活動が活発で、報告書作成をする時間も取れなかったんでしょう」
ようやく言葉を紡いだ私に、ミズハが援護射撃をしてくれる。
……こいつ、何を考えてるんだろ。
普段は突っかかってくるコイツが私の助けになる事をしている、違和感マックスな事この上ない。
大方私に自分の仕事を手伝え~とか、お礼に私の一日お手伝いさんになれとか、言ってきそうではある。
ま、セロのお仕置きに比べてマシな分、大分助かるけど。
ホログラムに目を向けるとセロが息を大きく吐いた。
「……ヘイゼル。今後、報告書はさっさと出すように。数日までに私に提出すれば、それでいい」
助かったわぁ……セロの事だから、私がサボっていたのを見透かした上で、こう言ってくれたのかもだけど。
その後セロは、惑星ナベリウス付近に極大な負のフォトンが観測されていること、惑星リリーパで再び不穏な気配があること等を伝えて通信を切った。
ま、今度はその情報に関する成果でも挙げれば多少心象はよくなるかな……?
「さーて……ヘ・イ・ゼ・ル?」
セロが去ったのを確認してミズハはニカリ、と笑って私を見る。
目を細めたこの表情は、なーにか、企んでいるわね……。
「今回は助け舟ありがと。それじゃ私はこれで」
ソファを立ち逃げ出そうとする。が、両肩を捕まれ座った体勢で固定される。
チビな癖して私より筋力あるのはちょっとムカつく。ヒューマンとニューマンで、アイツのほうが種族として華奢な筈なのに。
掴んでいた右手をほぐし、肩をぽんぽん叩いてくる彼女は何を企んでいるのか。
「せっかくのピンチを助けたんだ、素っ気無いのは無いんじゃないかなぁ」
「た、助けてくれとは言っていないし」
「だけどあのままだとお仕置きだったわよ?二週間アソコに篭りたかったの?」
「うっ……」
お仕置きというのは、修行のし直しみたいなものである。元々私組織――アンジェリカの構成員は、セロに拾われてからミッチリと使徒としてのイロハを叩き込まれるわけだが、数年かけて仕込まれるものを二週間に圧縮して再指導されるのが通称・お仕置きと呼ばれてる。通常の修行では通常の学問も取り扱うから息抜きはできるものの、再教育は実践部分をピックアップし24時間行われる正に地獄。人格崩壊してしまった者もいる、という噂を聞くほどだった。
「ヘイゼル、アンタがマゾだとは思わなかったわ」
「違うわよっ!」
「だってその態度、アタシにはお仕置きされたいな~としか思えないし」
だめだ、逃げるとこいつはセロにチクりかねない。
観念し身体の力を抜くと、満足したのかミズハも押さえつけていた左手も離し、目的を話し始めた。
「無茶な事を頼むんじゃないわ。ヘイゼル程のアークスなら簡単な仕事さ」
「は、どうだか。無茶苦茶な潜入任務の手伝い強制した事もあったでしょ。アレはどんな大変な目に遭ったか……」
「そんな事もあったわね」
恨み節をスルーされる。ぐぬぬ。
「単刀直入に言うとアタシもアークスとしての活動を本格化させる」
「へぇ、私がアンタを鍛える、とかそういう話?」
「話は最後まで聞け。アークスで最短の戦力強化といえば強い武器を持つことと聞いてるわ。そこでこの武器の素材となる輝石を拾ってきて欲しいの」
ミズハはそう言って端末からある武器の画像を出す。
ライブファンガー。
イシャーナ・ニルティリー・ヤーマの大輝石で交換される双機銃。
「特別警戒区域で採取されるんでしょ。エネミーもキッツイのが多いし、騎士団の人達を呼ぶのが得策じゃない?」
確かにあの区域を一人で探索するのは厳しい。しかし、私の尻拭いを皆にやって貰うのは筋が違うと思う。
「それに今回のは、騎士団の人達を私が見てみたいってのもあるから」
借りがある手前、今回はミズハの言う通りにお膳立てしなくちゃいけない。
騎士団の皆は大丈夫だと思うけど、今度何かして返さなきゃいけないわねぇ……。
「逃げ道はない……という事ね。皆に変な事するんじゃないわよ」
「可愛い同僚を預けているんだもの、姉さんに代わって見定めさせて貰うだけよ」
マイルームというそれに、ヘイゼルは備え付けられたベッドで横になっていた。脇にはフライドポテトと甘ったるいジュース。
空中の一点を見つめる視線に、集中という概念を探す事はできない。
「はぁ……最近する事ないわねぇ」
「ほう?ならさっさと仕事のノルマを出すんだな」
弛緩した声を被せて埋める、険のある幼い声。
「んげ!セ、セロ?あ~……仕事仕事……」
突然のホログラムを介した通信にヘイゼルは狼狽する。だらしのない姿を上司に見咎められたのが問題ではない。勿論それもあるのがだが、自分の使命をすっかり忘れていた、その一点が重く心に圧し掛かる。
ヘイゼル達が所属する組織は、人助けを生業としている。
彼女自身、人を助ける事でどうやって日々のメセタや食料を入手できるのかは知らない。組織の長であるセロへ一ヶ月に一回、自分の仕事を報告書として提出し成果に応じた報酬を貰う。長く行っているので、そういう疑問をはさむ事も無かった。
但し嘘の報告は全くと言っていいほど通用しない。
どういう事か嘘の報告はその場で見破られ、それでも押し通そうとするものなら数日後に状況証拠を揃えられ看破されてしまうのだ。
そして嘘報告を行った者と、一人ひとりに割り当てられるノルマをこなせなかった場合はオシオキが待っているのであった。
「お前は有能ではあるんだが、所々気が抜けているからなぁ」
溜息混じりに話すホログラムの先の上司が鬼に見えてくる、そんなレベルのキツイ所業。
早く報告書を添付し送ってこい、そう愚痴りつつ待っているセロにどうやって釈明しようか、冷や汗を流しながら考える。
そんな事でアイディアは湧かない。現実は非情である。
覚悟を決めて謝罪しよう、そう決した時ヘイゼルの後ろにあったマイルームの扉が開いた。
「セロさんさー、あんまヘイゼル脅しちゃダメですよ?こいつだけ呼び捨てなのが気に入らないかもだけど」
突如私の後ろにあった扉が開いて出てきたのは、褐色肌の同僚だった。
名はミズハ。ミズハ・ケルベロス。
同僚と言っても私より見た目も年齢も低い、しかし地位は私より高い。
あっけに取られた私をよそに、そいつは通信先のセロと会話を続ける。
「ヘイゼルの報告が遅いのはいつもの事でしょう。それに、所属してる騎士団の活動で忙しいようですし」
「ん……蒼月なんたら、だったか?仕事外の動きは自由だが、それで支障が出るようなら困るぞ」
「それが実益にもなっているようですね……ウォパルとナベリウス壊世地域で一人ずつ、救出活動もしたみたいです」
ほう、とセロが少し驚いた表情をする。
人の命を助けることは、人助けの中で最も査定が高い。そのようなシチュエーションに遭遇する事自体珍しいのもあり、数がこなせない故に高く設定されているんだろうけど。
ならなんでさっさと報告しないんだ、と続けてセロの言葉。そりゃそうだ。
「いや~……騎士団での活動が忙しくてねぇ」
「らしいですね。騎士団さんの活動が活発で、報告書作成をする時間も取れなかったんでしょう」
ようやく言葉を紡いだ私に、ミズハが援護射撃をしてくれる。
……こいつ、何を考えてるんだろ。
普段は突っかかってくるコイツが私の助けになる事をしている、違和感マックスな事この上ない。
大方私に自分の仕事を手伝え~とか、お礼に私の一日お手伝いさんになれとか、言ってきそうではある。
ま、セロのお仕置きに比べてマシな分、大分助かるけど。
ホログラムに目を向けるとセロが息を大きく吐いた。
「……ヘイゼル。今後、報告書はさっさと出すように。数日までに私に提出すれば、それでいい」
助かったわぁ……セロの事だから、私がサボっていたのを見透かした上で、こう言ってくれたのかもだけど。
その後セロは、惑星ナベリウス付近に極大な負のフォトンが観測されていること、惑星リリーパで再び不穏な気配があること等を伝えて通信を切った。
ま、今度はその情報に関する成果でも挙げれば多少心象はよくなるかな……?
「さーて……ヘ・イ・ゼ・ル?」
セロが去ったのを確認してミズハはニカリ、と笑って私を見る。
目を細めたこの表情は、なーにか、企んでいるわね……。
「今回は助け舟ありがと。それじゃ私はこれで」
ソファを立ち逃げ出そうとする。が、両肩を捕まれ座った体勢で固定される。
チビな癖して私より筋力あるのはちょっとムカつく。ヒューマンとニューマンで、アイツのほうが種族として華奢な筈なのに。
掴んでいた右手をほぐし、肩をぽんぽん叩いてくる彼女は何を企んでいるのか。
「せっかくのピンチを助けたんだ、素っ気無いのは無いんじゃないかなぁ」
「た、助けてくれとは言っていないし」
「だけどあのままだとお仕置きだったわよ?二週間アソコに篭りたかったの?」
「うっ……」
お仕置きというのは、修行のし直しみたいなものである。元々私組織――アンジェリカの構成員は、セロに拾われてからミッチリと使徒としてのイロハを叩き込まれるわけだが、数年かけて仕込まれるものを二週間に圧縮して再指導されるのが通称・お仕置きと呼ばれてる。通常の修行では通常の学問も取り扱うから息抜きはできるものの、再教育は実践部分をピックアップし24時間行われる正に地獄。人格崩壊してしまった者もいる、という噂を聞くほどだった。
「ヘイゼル、アンタがマゾだとは思わなかったわ」
「違うわよっ!」
「だってその態度、アタシにはお仕置きされたいな~としか思えないし」
だめだ、逃げるとこいつはセロにチクりかねない。
観念し身体の力を抜くと、満足したのかミズハも押さえつけていた左手も離し、目的を話し始めた。
「無茶な事を頼むんじゃないわ。ヘイゼル程のアークスなら簡単な仕事さ」
「は、どうだか。無茶苦茶な潜入任務の手伝い強制した事もあったでしょ。アレはどんな大変な目に遭ったか……」
「そんな事もあったわね」
恨み節をスルーされる。ぐぬぬ。
「単刀直入に言うとアタシもアークスとしての活動を本格化させる」
「へぇ、私がアンタを鍛える、とかそういう話?」
「話は最後まで聞け。アークスで最短の戦力強化といえば強い武器を持つことと聞いてるわ。そこでこの武器の素材となる輝石を拾ってきて欲しいの」
ミズハはそう言って端末からある武器の画像を出す。
ライブファンガー。
イシャーナ・ニルティリー・ヤーマの大輝石で交換される双機銃。
「特別警戒区域で採取されるんでしょ。エネミーもキッツイのが多いし、騎士団の人達を呼ぶのが得策じゃない?」
確かにあの区域を一人で探索するのは厳しい。しかし、私の尻拭いを皆にやって貰うのは筋が違うと思う。
「それに今回のは、騎士団の人達を私が見てみたいってのもあるから」
借りがある手前、今回はミズハの言う通りにお膳立てしなくちゃいけない。
騎士団の皆は大丈夫だと思うけど、今度何かして返さなきゃいけないわねぇ……。
「逃げ道はない……という事ね。皆に変な事するんじゃないわよ」
「可愛い同僚を預けているんだもの、姉さんに代わって見定めさせて貰うだけよ」
リザルト
Result:Sランク
戦闘不能回数2回、Eトラ失敗回数1回は許容範囲内
サポパ護衛、墜落シップ防衛など救助任務は危険なく成功し、
緊急で行われた二回目のクエストで無事要救助者の保護に成功した為
巨大なモニュメントの麓、古代の花々が咲き誇る遺跡地区の一角を、四人のアークスが飛び舞う。
来ヶ谷冷架の大剣は唸りをあげキュクロナーダの急所を破壊し、露出した弱点をヘイゼルのツインダガーが切り刻む。イヴの双機銃はファルス・ヒューナルの意識を引くには十分で、作られた余裕の中でテュアは要救助者を労わる。
救難信号を発し蒼白となっていた黒人は、四人の少女(性格には三人と男子一人)の活躍に血色を取り戻す。
逃げ惑いながら応援しているうちに、形勢が騎士団側へと傾くのにそう時間はかからなかった。
得意の武器は折れ、ダーカーの首魁が膝をつく。
空間を裂き、撤退する闇の眷属。
騎士団の勝利であった。
「結果は大成功、Sランクよ。皆さんありがとうございました」
ヘイゼルが要救助者であった黒人の付き添いでメディカルセンターへ寄っている中、三人はミズハからクエストの報告を受けていた。
依頼者の彼女曰く、本来の目的であるニルティリー収集は殆ど建前であったとの事。
本当の目的は蒼月騎士団の実力調査。
騎士と名乗るからには、生命を護る事に対して彼らはどの程度の力を見せてくれるのか、それが重要であったのだ。
多少傷つきはしたものの、サポートパートナーや他の著名なアークス、そして二回目の出撃の主目的であった緊急の救助任務。
一度も四人は零れ落す事はなかったのであった。
「やったーっ!」
歳相応に喜ぶイヴ、礼儀正しく謝意を伝えるテュア、なぜかグルグルパンチをして嬉しさを表す冷架。
三様な姿にミズハはうんうんと頷く。
芸人団か、というツッコミをいれられたじろぐ団長と構わず和気藹々に話す団員。ヘイゼルに関する雑談を続けているうちに、ミズハは思った。
彼ら騎士団は、いい人達だ。
他人の為に必死になり、笑い、泣く。信じるに値すべき人達だ。
ならば、もしかしたら……。
「ひとつ、団長さんにお願いしたい事が……」
◇◆◇
「ミズハっ!なんでアンタも騎士団に!」
大声を出してあたしの部屋にヘイゼルがやってきた。いっつもあたしをバカにしてくるのに、それじゃアンタがバカみたいだぞ。
「なんでって、面白そうに決まってるからじゃん。ズルイわよ、何も言わないでてさ」
「そりゃ私が冷架君に誘われたからで、別にアンタに言う必要は……」
ナンかぶつぶつ言ってるけど、聞かない事にする。
どうにもヘイゼルはあたしに対して説教臭い。
年齢が大分違うから姉貴面してるのだろうか分からないが、あたしの方が上司なのに。
「もーいいのっ!だって契約書にサインしたし~~!」
ペラと見せてやる。唸りながらそれを見るヘイゼル。
「それにあたしだって、そこそこアークスとして活動しているし?あんたにもいい思いさせてやるわよ!」
「それで問題ばっかり持ってくるでしょうが……」
「大体っ!ウチは二人一組で行動するのが決まりでしょ?今までアンタは単独だったんだから、あたしが見てやるってのよ」
むむむ、と言ってようやく彼女は引き下がった。
……まぁ騎士団はヘイゼルのプライベート空間なのだろう。
それを長い付き合いとはいえ組織の人間が土足で踏み荒らしたのだから、気分は良くない。
あたしだって実家を巻き込まれたら激おこになるってもんよ。
しかし今まで単独行動を許されるほど優秀だったヘイゼルが、仕事の停滞で今回問題を起こしたのは事実。
何か怠惰にさせる問題はあるのなら、ケルベロスたるあたしが排除してあげなければ。
戦闘不能回数2回、Eトラ失敗回数1回は許容範囲内
サポパ護衛、墜落シップ防衛など救助任務は危険なく成功し、
緊急で行われた二回目のクエストで無事要救助者の保護に成功した為
巨大なモニュメントの麓、古代の花々が咲き誇る遺跡地区の一角を、四人のアークスが飛び舞う。
来ヶ谷冷架の大剣は唸りをあげキュクロナーダの急所を破壊し、露出した弱点をヘイゼルのツインダガーが切り刻む。イヴの双機銃はファルス・ヒューナルの意識を引くには十分で、作られた余裕の中でテュアは要救助者を労わる。
救難信号を発し蒼白となっていた黒人は、四人の少女(性格には三人と男子一人)の活躍に血色を取り戻す。
逃げ惑いながら応援しているうちに、形勢が騎士団側へと傾くのにそう時間はかからなかった。
得意の武器は折れ、ダーカーの首魁が膝をつく。
空間を裂き、撤退する闇の眷属。
騎士団の勝利であった。
「結果は大成功、Sランクよ。皆さんありがとうございました」
ヘイゼルが要救助者であった黒人の付き添いでメディカルセンターへ寄っている中、三人はミズハからクエストの報告を受けていた。
依頼者の彼女曰く、本来の目的であるニルティリー収集は殆ど建前であったとの事。
本当の目的は蒼月騎士団の実力調査。
騎士と名乗るからには、生命を護る事に対して彼らはどの程度の力を見せてくれるのか、それが重要であったのだ。
多少傷つきはしたものの、サポートパートナーや他の著名なアークス、そして二回目の出撃の主目的であった緊急の救助任務。
一度も四人は零れ落す事はなかったのであった。
「やったーっ!」
歳相応に喜ぶイヴ、礼儀正しく謝意を伝えるテュア、なぜかグルグルパンチをして嬉しさを表す冷架。
三様な姿にミズハはうんうんと頷く。
芸人団か、というツッコミをいれられたじろぐ団長と構わず和気藹々に話す団員。ヘイゼルに関する雑談を続けているうちに、ミズハは思った。
彼ら騎士団は、いい人達だ。
他人の為に必死になり、笑い、泣く。信じるに値すべき人達だ。
ならば、もしかしたら……。
「ひとつ、団長さんにお願いしたい事が……」
◇◆◇
「ミズハっ!なんでアンタも騎士団に!」
大声を出してあたしの部屋にヘイゼルがやってきた。いっつもあたしをバカにしてくるのに、それじゃアンタがバカみたいだぞ。
「なんでって、面白そうに決まってるからじゃん。ズルイわよ、何も言わないでてさ」
「そりゃ私が冷架君に誘われたからで、別にアンタに言う必要は……」
ナンかぶつぶつ言ってるけど、聞かない事にする。
どうにもヘイゼルはあたしに対して説教臭い。
年齢が大分違うから姉貴面してるのだろうか分からないが、あたしの方が上司なのに。
「もーいいのっ!だって契約書にサインしたし~~!」
ペラと見せてやる。唸りながらそれを見るヘイゼル。
「それにあたしだって、そこそこアークスとして活動しているし?あんたにもいい思いさせてやるわよ!」
「それで問題ばっかり持ってくるでしょうが……」
「大体っ!ウチは二人一組で行動するのが決まりでしょ?今までアンタは単独だったんだから、あたしが見てやるってのよ」
むむむ、と言ってようやく彼女は引き下がった。
……まぁ騎士団はヘイゼルのプライベート空間なのだろう。
それを長い付き合いとはいえ組織の人間が土足で踏み荒らしたのだから、気分は良くない。
あたしだって実家を巻き込まれたら激おこになるってもんよ。
しかし今まで単独行動を許されるほど優秀だったヘイゼルが、仕事の停滞で今回問題を起こしたのは事実。
何か怠惰にさせる問題はあるのなら、ケルベロスたるあたしが排除してあげなければ。
オブリガティオネ・アンゲロルム3
参加者 ヘイゼル、リベルテ・スワロー、ココロ、イヴ、姉憐、焔咲 志翼
活動地域 惑星地球・東京エリア
オープニング
アークスシップ内にある大きな一つの屋敷。
屋敷の周囲には大きな庭があり、池や木々が生い茂っていた。更にその自然達を大きな壁や柵、有刺鉄線が侵入者を許さぬとばかり立ち塞がり、フォトンを使用した監視システムまで完備しているこの場所こそ、ヘイゼル達が所属する組織の本部である。
そのうちの一室にヘイゼルとミズハは居た。
「二人一緒に呼ばれるなんて……あんたとの仕事は嫌なのに」
ヘイゼルが呟く形で目の前の少女に愚痴るも、彼女には効いていない。
「仕事勝負……負けないわよ。アンタに」
自分の世界に入っているミズハを一瞥し溜息。
こういうテンションの時は大体面倒な事になるのよねぇ、と思いつつ口には出さない。
同じやり取りをもう10回は超えようとしている。これ以上は時間の無駄だ。
待ち時間をどう潰すか、桃色の髪を揺らし周囲に視線を運んでいる最中、彼女にとってようやくと扉が開く。
その先には二人を呼んだ組織の長・セロが居た。
「待たせたな、二人とも。感づいているだろうが仕事の話だ」
間髪居れずに用件を伝える頭領の様子から、二人は情報を逃すまいと意識を研ぎ澄ます。
「用件はこいつの教育だ。入ってこい」
セロは二人を意に介さず、自分がやってきた扉に向かって声を掛ける。
甲高い木の軋む音を告げて開いた扉の奥には、組織幹部三人よりを見下ろすキャストが一人、居心地悪そうにしていた。
彼女から見て大、中、と背の高い順に目を合わせてはすぐに切る。
小であるセロを他の二人よりも長く見つめつつ、口はもごもごと開かないなりに動かしていた。
「アンナ・アンヘリア。このように人見知り激しいが、素体が意識なしのモノだったんでな。悪い奴ではない」
アンナと呼ばれたキャストに見ずセロは言って、顎をヘイゼル達から彼女の方向へ動かす。
この上司はコミュニケーション能力が全然無い……。自己紹介しろという事なのだろう。
実際にやっては不味いと嘆息を心の中でしつつ、ツインテールを風に揺らして踊り出る。何事も掴みが大事なのだ、ヘイゼルは肺を膨らませた。
「謎のスーパーエジェント、ヘイゼル・スロンネス17歳!よろしく頼むわよ!」
部屋の空気が固まった。
重い、淀んだ時間が数拍。
「お前は何でいつも自己紹介で嘘を混ぜるんだ」
硬直を壊したのはセロ。ヘイゼルの悪癖、もといファーストインプレッションでのスベリ芸をいなすのには慣れていた。
「あ、あ、あ、あたしはミズハ・ケルベロス!こう見えて凄く偉いのよ!よろしくっ」
そうして褐色の少女もアンナに相対する。
ミズハは自身のライバルが掴みどころの無いふさげた奴だと知ってはいたものの、どうにも立ち直りができない。幼い故に残る素直さと彼女本来の真面目さが、ヘイゼルに遊ばれ続ける要因の一つだ。
「気にせず、自分のペースで喋ってもいいのよぉ?」
固い空気を作った本人の談。
内容に反して音は揺れ、そっぽを向く顔から僅かに見える肌は朱に染まっている。
恥ずかしいが、こうやって自分で動いて打ち解ける。それがヘイゼルの信念の一つだ。
幹部と聞いて、どんな猛禽が出るのかと慄いていたアンナは三様の反応に、つい息を吹き出してしまう
「はっ!す、すみませ……」
「いーのいーの。組織って言っても、ゆるーくゆるーくいきましょ」
手をひらひらさせる座天使に遮られ、謝罪の言葉を飲み込む。
そして思う。自分の事は自分の言葉で。自然と唇が声を紡ぎだしていた。
「私はアンナ……アンヘリア?です。生まれたばかりで何も知らないですが、よろしくお願いします!先輩!」
「先輩って言葉知ってるじゃない。どういうこと?」
「キャストのみに使用できる初期プログラムだ。漫才じゃないんだ馬鹿者が。早く仕事の話に入るぞ」
「アンヘリアの階級が行うエージェントになる為の教育、いつもなら私がしているんだが、どうにも別件で忙しくてな。ケルベロスの連中も潜入任務なり色々と難しい。そこで、騎士団なんぞという組織で暇しているお前を抜擢したわけだ、ヘイゼル」
「セロ様セロ様、ケルベロスといえばあたしあたし……」
左手で自分を指差しながら挙手をするミズハ。目が点になっていた。
「お前、他人の教育できるのか?戦闘訓練だけだろう」
「馬鹿にしないでくれますっ!?少なくともこいつよりは」
ミズハに指を指され、ヘイゼルは不愉快に目を向ける。
「オラクル船団における暗号の種類、及び解読方法。今から全部言える?」
「ぐ……っ!!む、ふんっ」
歯軋りをして顔を背ける銀髪少女。勝った、と口角上がるヘイゼル。二人をセロは呆れて見るばかりだった。
「私だってね、セロ。騎士団でお世話になっているけど、暇しているわけじゃないの。わかる?アンタからいつも仕事が飛んでくるじゃない」
「それが今回アンナの教育というだけだ。教育期間は他の仕事を回さない。結構じゃないか」
「報告時以外、騎士団に出入りしていて此処には戻ってきてないでしょ。そんな頻繁にアンナを見に戻ってこれな」
「ならアンナと同棲すればよいし、必要なら騎士団で預かってもらえばよい」
自身が団長補佐を勤める面子に、にべも無く押し付けようとする上司に絶句するヘイゼル。
「ミズハも急に押しかけて了承されたんだろう。なら二人や三人、増えたとしても大丈夫じゃないか?」
「ふざけんじゃな……っ」
怒号が吐き出されようとして、止まる。
慣れ親しんだ団長の顔がヘイゼルの頭をよぎり、大歓迎だよ~という言葉が聞き慣れた声で補完された。セロの言葉を否定できない自分が居た。
「団長さんはいい人だからね。許してくれるかもしれない」
「ミズハっ!!」
飛ぶはずだった言葉は勢いだけが横槍をした少女に向かった。普段は噛み付き返すが突然すぎてシュンとなる。
取り残される彼女にアンナは近付き、頭を撫でる。
「よしよし、よしよし」
「……なにすんのよ。あたしの方が年上なのよ」
「こうするのがいい、ってふと思って」
(本当に子供みたいなんだなぁ)
たどたどしく、しかししっかりと話すアンナの姿にミズハは自然とはにかんで、ぽんぽんと優しく頭に手を置く返礼をした。
勝手にのどかな時間を作った二人がヘイゼルの視界に入った。組織の中では古参の部類だし、教育するのも悪いことじゃない……考え方が変わると、自然に毒気を失っていった。
仕事だしね、と割り切ると端末を開いて騎士団の通信室に繋げるのであった。
屋敷の周囲には大きな庭があり、池や木々が生い茂っていた。更にその自然達を大きな壁や柵、有刺鉄線が侵入者を許さぬとばかり立ち塞がり、フォトンを使用した監視システムまで完備しているこの場所こそ、ヘイゼル達が所属する組織の本部である。
そのうちの一室にヘイゼルとミズハは居た。
「二人一緒に呼ばれるなんて……あんたとの仕事は嫌なのに」
ヘイゼルが呟く形で目の前の少女に愚痴るも、彼女には効いていない。
「仕事勝負……負けないわよ。アンタに」
自分の世界に入っているミズハを一瞥し溜息。
こういうテンションの時は大体面倒な事になるのよねぇ、と思いつつ口には出さない。
同じやり取りをもう10回は超えようとしている。これ以上は時間の無駄だ。
待ち時間をどう潰すか、桃色の髪を揺らし周囲に視線を運んでいる最中、彼女にとってようやくと扉が開く。
その先には二人を呼んだ組織の長・セロが居た。
「待たせたな、二人とも。感づいているだろうが仕事の話だ」
間髪居れずに用件を伝える頭領の様子から、二人は情報を逃すまいと意識を研ぎ澄ます。
「用件はこいつの教育だ。入ってこい」
セロは二人を意に介さず、自分がやってきた扉に向かって声を掛ける。
甲高い木の軋む音を告げて開いた扉の奥には、組織幹部三人よりを見下ろすキャストが一人、居心地悪そうにしていた。
彼女から見て大、中、と背の高い順に目を合わせてはすぐに切る。
小であるセロを他の二人よりも長く見つめつつ、口はもごもごと開かないなりに動かしていた。
「アンナ・アンヘリア。このように人見知り激しいが、素体が意識なしのモノだったんでな。悪い奴ではない」
アンナと呼ばれたキャストに見ずセロは言って、顎をヘイゼル達から彼女の方向へ動かす。
この上司はコミュニケーション能力が全然無い……。自己紹介しろという事なのだろう。
実際にやっては不味いと嘆息を心の中でしつつ、ツインテールを風に揺らして踊り出る。何事も掴みが大事なのだ、ヘイゼルは肺を膨らませた。
「謎のスーパーエジェント、ヘイゼル・スロンネス17歳!よろしく頼むわよ!」
部屋の空気が固まった。
重い、淀んだ時間が数拍。
「お前は何でいつも自己紹介で嘘を混ぜるんだ」
硬直を壊したのはセロ。ヘイゼルの悪癖、もといファーストインプレッションでのスベリ芸をいなすのには慣れていた。
「あ、あ、あ、あたしはミズハ・ケルベロス!こう見えて凄く偉いのよ!よろしくっ」
そうして褐色の少女もアンナに相対する。
ミズハは自身のライバルが掴みどころの無いふさげた奴だと知ってはいたものの、どうにも立ち直りができない。幼い故に残る素直さと彼女本来の真面目さが、ヘイゼルに遊ばれ続ける要因の一つだ。
「気にせず、自分のペースで喋ってもいいのよぉ?」
固い空気を作った本人の談。
内容に反して音は揺れ、そっぽを向く顔から僅かに見える肌は朱に染まっている。
恥ずかしいが、こうやって自分で動いて打ち解ける。それがヘイゼルの信念の一つだ。
幹部と聞いて、どんな猛禽が出るのかと慄いていたアンナは三様の反応に、つい息を吹き出してしまう
「はっ!す、すみませ……」
「いーのいーの。組織って言っても、ゆるーくゆるーくいきましょ」
手をひらひらさせる座天使に遮られ、謝罪の言葉を飲み込む。
そして思う。自分の事は自分の言葉で。自然と唇が声を紡ぎだしていた。
「私はアンナ……アンヘリア?です。生まれたばかりで何も知らないですが、よろしくお願いします!先輩!」
「先輩って言葉知ってるじゃない。どういうこと?」
「キャストのみに使用できる初期プログラムだ。漫才じゃないんだ馬鹿者が。早く仕事の話に入るぞ」
「アンヘリアの階級が行うエージェントになる為の教育、いつもなら私がしているんだが、どうにも別件で忙しくてな。ケルベロスの連中も潜入任務なり色々と難しい。そこで、騎士団なんぞという組織で暇しているお前を抜擢したわけだ、ヘイゼル」
「セロ様セロ様、ケルベロスといえばあたしあたし……」
左手で自分を指差しながら挙手をするミズハ。目が点になっていた。
「お前、他人の教育できるのか?戦闘訓練だけだろう」
「馬鹿にしないでくれますっ!?少なくともこいつよりは」
ミズハに指を指され、ヘイゼルは不愉快に目を向ける。
「オラクル船団における暗号の種類、及び解読方法。今から全部言える?」
「ぐ……っ!!む、ふんっ」
歯軋りをして顔を背ける銀髪少女。勝った、と口角上がるヘイゼル。二人をセロは呆れて見るばかりだった。
「私だってね、セロ。騎士団でお世話になっているけど、暇しているわけじゃないの。わかる?アンタからいつも仕事が飛んでくるじゃない」
「それが今回アンナの教育というだけだ。教育期間は他の仕事を回さない。結構じゃないか」
「報告時以外、騎士団に出入りしていて此処には戻ってきてないでしょ。そんな頻繁にアンナを見に戻ってこれな」
「ならアンナと同棲すればよいし、必要なら騎士団で預かってもらえばよい」
自身が団長補佐を勤める面子に、にべも無く押し付けようとする上司に絶句するヘイゼル。
「ミズハも急に押しかけて了承されたんだろう。なら二人や三人、増えたとしても大丈夫じゃないか?」
「ふざけんじゃな……っ」
怒号が吐き出されようとして、止まる。
慣れ親しんだ団長の顔がヘイゼルの頭をよぎり、大歓迎だよ~という言葉が聞き慣れた声で補完された。セロの言葉を否定できない自分が居た。
「団長さんはいい人だからね。許してくれるかもしれない」
「ミズハっ!!」
飛ぶはずだった言葉は勢いだけが横槍をした少女に向かった。普段は噛み付き返すが突然すぎてシュンとなる。
取り残される彼女にアンナは近付き、頭を撫でる。
「よしよし、よしよし」
「……なにすんのよ。あたしの方が年上なのよ」
「こうするのがいい、ってふと思って」
(本当に子供みたいなんだなぁ)
たどたどしく、しかししっかりと話すアンナの姿にミズハは自然とはにかんで、ぽんぽんと優しく頭に手を置く返礼をした。
勝手にのどかな時間を作った二人がヘイゼルの視界に入った。組織の中では古参の部類だし、教育するのも悪いことじゃない……考え方が変わると、自然に毒気を失っていった。
仕事だしね、と割り切ると端末を開いて騎士団の通信室に繋げるのであった。
リザルト
Result:Aランク
オーダーされた現地の食べ物・遊び道具・服の入手に成功
原住民との大きな軋轢も無く終えられた為、通常の評価となる
依頼主ではなく「アンナの欲しいもの」を聞いてみると更に良かったかも……?
蒼月騎士団は無事に組織の依頼を完遂した。
道中、姉憐の着ぐるみから女子学生に囲まれたり、イヴが地球惑星の都会に染まった原住民の態度に思う事があったりしたものの、ココロやリベルテのフォローにより回避。
興味深々に街を回る志翼が色々なものを発見しセロが依頼として出した品物が、アンナの手の中に納まっていた。
ドーナツ――チュロスとオールドファッションと呼ばれるもの――、ゲーム機、ブーツである。
セロはこれで情操教育に好影響を与えるだろう、と頷きキャストの彼女を見る。
にこにこと甘味を頬張るアンナは幸せを外に表現していたが、単純に親から与えられたものが本当の幸せへと繋がるのか、現時点では分からないだろう。
「……騎士団を抜けろ、ですって?いくらアンタとはいえ、話を進めすぎじゃないのさ」
アンナがプレゼントで甘い時間を過ごす頃、任務を終えたヘイゼルは組織の長に食ってかかっていた。
任務終了後、セロは同行した騎士団の面々にヘイゼルの脱退を一方的に宣言していた。
これは受け取った騎士団の面々が一時的な別れとして咀嚼していたが、流転する本人であるヘイゼル自身にとっても寝耳に水の案件であった。
「リンカの方でな、ちょっと手を貸して欲しいと話があった。奴の仕事の性質上、お前が適任だと判断した」
別段表情を変えず告げるセロ。
彼女の判断は全くの正論であり、反対を挟む余地が無い。それが理解できる故に、ヘイゼルは苛々を募らせずにはいられなかった。
「貴様はあの連中に気を許しすぎだ。お前が一番大事にしなければいけないもの、それを再認識するんだな」
組織の目的は世界への奉仕である。
その為には身を粉にし、自身を殺してでも世界の位階を上昇させる。
ヘイゼルには理解できない事であったが、掟は絶対なのである。
嘆息し俯いた。既に投げられた賽には従わねばならない。
「私が居なくなって……ここらへんでの仕事は、どうするの?」
「ミズハがついていってるだろう。奴に任せる。そろそろ自立させる時だろう」
「……まぁ、戦闘能力だけならあるけど、アイツに私の仕事が……」
「これは決定事項だ。今更変更の予定はない」
話す事は終わった、そう言わんが如く二人が話していた応接室をセロは退出する。
どいつもこいつもこの組織の連中は強引だ、そう心中で愚痴りつつ、ヘイゼルは頭の中でミズハへ仕事の引継ぎをどうするか、早速組み立てていた。
私以上に力押ししか出来ない子だ。何から説明するべきか……。
山積する苦労に意識を没入し始めていた彼女には、隣の部屋で何かが勢い良くぶつかる音を気付く事はなかった。
オーダーされた現地の食べ物・遊び道具・服の入手に成功
原住民との大きな軋轢も無く終えられた為、通常の評価となる
依頼主ではなく「アンナの欲しいもの」を聞いてみると更に良かったかも……?
蒼月騎士団は無事に組織の依頼を完遂した。
道中、姉憐の着ぐるみから女子学生に囲まれたり、イヴが地球惑星の都会に染まった原住民の態度に思う事があったりしたものの、ココロやリベルテのフォローにより回避。
興味深々に街を回る志翼が色々なものを発見しセロが依頼として出した品物が、アンナの手の中に納まっていた。
ドーナツ――チュロスとオールドファッションと呼ばれるもの――、ゲーム機、ブーツである。
セロはこれで情操教育に好影響を与えるだろう、と頷きキャストの彼女を見る。
にこにこと甘味を頬張るアンナは幸せを外に表現していたが、単純に親から与えられたものが本当の幸せへと繋がるのか、現時点では分からないだろう。
「……騎士団を抜けろ、ですって?いくらアンタとはいえ、話を進めすぎじゃないのさ」
アンナがプレゼントで甘い時間を過ごす頃、任務を終えたヘイゼルは組織の長に食ってかかっていた。
任務終了後、セロは同行した騎士団の面々にヘイゼルの脱退を一方的に宣言していた。
これは受け取った騎士団の面々が一時的な別れとして咀嚼していたが、流転する本人であるヘイゼル自身にとっても寝耳に水の案件であった。
「リンカの方でな、ちょっと手を貸して欲しいと話があった。奴の仕事の性質上、お前が適任だと判断した」
別段表情を変えず告げるセロ。
彼女の判断は全くの正論であり、反対を挟む余地が無い。それが理解できる故に、ヘイゼルは苛々を募らせずにはいられなかった。
「貴様はあの連中に気を許しすぎだ。お前が一番大事にしなければいけないもの、それを再認識するんだな」
組織の目的は世界への奉仕である。
その為には身を粉にし、自身を殺してでも世界の位階を上昇させる。
ヘイゼルには理解できない事であったが、掟は絶対なのである。
嘆息し俯いた。既に投げられた賽には従わねばならない。
「私が居なくなって……ここらへんでの仕事は、どうするの?」
「ミズハがついていってるだろう。奴に任せる。そろそろ自立させる時だろう」
「……まぁ、戦闘能力だけならあるけど、アイツに私の仕事が……」
「これは決定事項だ。今更変更の予定はない」
話す事は終わった、そう言わんが如く二人が話していた応接室をセロは退出する。
どいつもこいつもこの組織の連中は強引だ、そう心中で愚痴りつつ、ヘイゼルは頭の中でミズハへ仕事の引継ぎをどうするか、早速組み立てていた。
私以上に力押ししか出来ない子だ。何から説明するべきか……。
山積する苦労に意識を没入し始めていた彼女には、隣の部屋で何かが勢い良くぶつかる音を気付く事はなかった。
ディサステル・クロックウォルク
参加者
第一作戦 ヘイゼル、リベルテ・スワロー、さきちゃお、長尾景虎
第二作戦 ミズハ、秋乃向日葵、ココロ、エミリ、飛明、姉憐、テテン、リンネ、イヴ、サイゾウ
活動地域
第一作戦 シップ「イアペトス」・地下組織アジト
第二作戦 惑星リリーパ・地下組織支部(採掘基地付近)
オープニング
アークスシップ『イアペトス』。
何の変哲もなく、大きな問題が起こった過去すらない平和な船に、ヘイゼルは降り立っていた。
一般人も過ごす居住区は活気に満ち、仕事や学業に励む人達が行き交っている。
人のうねりに紛れ込み、市民と似通った服装に身を包んだ彼女は進む。近くにはヘイゼルの顔馴染みである蒼月騎士団の数名が、同じく変装し一定の間隔を空け同じ方向に歩く。
穏やかな光の隙間には得てして影がある。
イアペトスに紛れる闇。それこそがヘイゼルの、組織の、協力する騎士団員の標的であった。
◇◆◇
時間は遡り、事象は組織本部の一室より始まった。
薄暗い部屋にある豪奢な椅子に座るは長のセロ。彼女の肌を煌々と照らすホログラムには一人の女性が写っていた。上司である童女と好対照の、女性としての特徴が大きな成人女性である。
張り詰めた空気がその場には充満していたが、女性は穏やかな声色と言葉を紡いでいた。
「こちらは全ての準備が終わった、セロよ。必要な人員が来れば、じわじわと標的を瓦解することができますよ」
「その為に数か月潜って貰ったのだ……ご苦労だったな、リンカよ」
「これが我らの仕事なれば。労いの言葉は、全てが終わった後に頂戴致します」
リンカと呼ばれた女性の言葉に、フンと息を吐く。正論ゆえ返す言葉もない中で、精一杯できる返答だった。
組織が標的とした地下組織は人身売買、希少資源の横領や強奪、危険薬物の流通などオラクルの安全を脅かす、それなりの規模を持った組織であった。
リンカは自身も密売人として偽り接触。
汚い仕事に多少手を染めて信頼を獲得、どうにかして中枢を掴むまで至った。
「ミズハには流石に無理だったからな……ヘイゼルなら上手く立ち回れただろうが、騎士団の事もある」
デューマン幼女の脳裏に浮かぶは幹部クラスの少女二人の顔。
時間をかけた甲斐もあり、標的は丸裸となっていた。
後はリンカのサポートとしてヘイゼルを投入し、外縁から組織を蝕むだけであった。
偶然ではあるがヘイゼルが気紛れで加入した蒼月騎士団にミズハも接触している。
騎士団との窓口も、褐色少女が居るのならヘイゼル離脱の穴は塞がれる
先日からミズハとの連絡が取れなくなっているが、話を聞く分には騎士団の施設で鍛錬しているらしい。
ミズハに関しては泳がせてままにし、騎士団とのコネクションは彼女に任せておけばいいだろう。
脳内で結論付け、椅子に深く身体を預けヘイゼルへどう任務を伝えるか。
思考を切り替えた童女の背後、部屋の扉がゆっくりと開かれる。
ホログラム以外の光が漏れ、話し込んでいた二人はそちらに目を向ける。
立っていたのはヘイゼルその人だった。
「何の要件だ。通信中は入ってくるなと言っているであろう」
不快そうに見据えるセロ、彼女の放つ剣呑な空気を気にせずヘイゼルは二人に近づく。
「二人とも居るのね、丁度よかったわぁ」
「私とリンカに要件があるという事は……狙っていたな、この時間を」
ええそうね。悪びれず、桃色の髪を揺らして頷いた。
「ヘイゼル、久しいな。鍛錬は続けているか?」
「師匠もご健勝で」
ホログラムに向き直しお辞儀をするヘイゼル。問いに返答はなかった。
苦笑しつつリンカは彼女の目的に切り込む。
「それで、何の要件だ。貴様に伝えてある、地下組織への謀略に関する件であろうが」
「お前が騎士団に入れ込んでいるのは理解している。だが、優先度をはき違えていないだろうな。我ら組織でより重要なのは、世界の平穏を崩す邪悪を滅殺する事だ」
セロも不愉快な声色を隠そうともせず、言葉を繋ぎ畳みかける。
「まさか仕事を降りたい、という訳ではあるまいな」
「そんなわけないじゃない、私も理解してるわよ」
予想を外し怪訝な表情を浮かべるセロと何か思案するリンカ。
二人が二の句を継ぐ前に、ヘイゼルは自分の考えを畳みかけ返した。
「地下組織の崩壊、それを速攻する事は可能かしら?……私は、それでいきたい」
「……は?お前、何を言っているんだ」
間髪入れず疑問を呈したのはセロだった。通信の先に居るリンカは表情を変えず、心中を窺い知ることはできない。
「時間をかければ瓦解させられる作戦だ、今更変更して危険な賭けをする意味はないだろう」
「だけど、早めに崩壊させなければ被害者は増えるかもしれないわ。人の身柄を弄ぶ組織なんだし……」
「それはどうしても出てしまう被害だ。所謂コラテラル・ダメージという、な」
部下の提案を途中で遮り、セロは怒気を隠さず言い詰める。
普段から口を歪ませ目つきの悪い彼女の顔だが、険が濃くなり羅刹の様相を呈していた。
「大体その即殺提案も、貴様が騎士団を離れたくないという心地からだろう。違うか?」
「貴様はあの騎士団に肩入れしすぎだ。確かに悪性の組織ではないが、貴様の本来所属している組織は何処だ。我々アンジェリカではないのか。我々の使命を蔑ろにするつもりではあるまいな」
「今、騎士団はOMFっていう敵対組織とのイザコザで忙しくて」
「フン、やはり騎士団絡みではないか。いいか、我々と彼らの立場を混同するな。しっかりと線引きをしなければ、今後騎士団との関わりを絶って貰わなくてはいかん」
詰問を続けるセロであったが、彼女も蒼月騎士団に少なからず接触し、思う事があった。
任務を遂行する事が最上の価値観であったヘイゼルが、騎士団との関わりを優先する価値観を持った。
いつもの馬鹿騒ぎがきっかけとはいえ、ミズハが騎士団という新しい関わりを手に入れ組織との交信を絶った。
今まで恙なく動いていた彼女達の変化は愉快なものではなかった。
「まぁまぁ、二人とも落ち着くといい」
沈黙していたリンカが状況に切り込んでくる。
ヒートアップしていたセロと、押し負け俯いていたヘイゼルはホログラムに視線を移す。
「お前が周到に準備した任務ではないか、リンカ。お前も異論を挿むのか」
「私が主に計画し下地を作った事です。セロ、貴女よりも現状を把握しているつもりですが」
ならば私がこの中で一番状況を知っているはずです。続けられた言葉に、むぅと言葉をつき童女は押し黙った。
ヘイゼルの階級と違い、リンカやミズハが冠する組織の階級ケルベロスは、決してセロの言葉を盲目的に従うのみではない、反対意見を持ち独自に行動できる権限も持ち合わせている。ヘイゼルの階級スロンネスと、彼女の使役するサイクや数度騎士団と接触した過去のあるトリノ等は、セロの命令を聞く以外の選択肢は持ち合わせていない。
力を持つが、ミズハのように無謀でもない。リンカとはセロと対等な、組織では本当に数少ない一人であった。
「ヘイゼルの提案を容れられる作戦が一つだけあります。それは鏖殺です」
「おうさつ……?なんですか、それ」
「皆殺し、という事だな」
ヘイゼルの問いにセロが答えた。緊張が部屋に漲った。
弟子が理解したとしてリンカは口を開いた。
「地下組織はイアペトスの地下にある円形のオフィスを最深部としています。市街地のあるお店を入口とし、広大な地下通路が広がっています」
「うむ。……しかしどうしてこんなもの、アークスシップの地下に作り出せたのだ」
「リリーパの希少資源や、攫った人間を確保するのに必要だとか。まぁ、全てをシップ内で賄おうとするのは飽きれますね」
嘆息しつつ、ホログラム上に浮かぶ敵組織の地図を指さし、解説を続ける。
「最深部までは一本道となっており、大きな出口は先程の店しかありませんが、緊急脱出用の出口は至る所にあります。この多数の緊急用出口が攻略をゆっくり行う主要因ですが、鏖殺するならば問題はないという事です」
「なんで、これを最初に提案しなかったんですか?」
「私と君だけでは全員を討伐ないし確保するには手が足りないからだ、ヘイゼル」
ならばなぜこの提案をしたのだ、セロが放つ当然の疑問にリンカは予期せぬ答えを告げた。
「ヘイゼルが懇意にしている、蒼月騎士団の力を借ります」
「なっ……!?また彼らの力を借りるのか」
「皆に汚れ仕事なんか、させるわけには……」
セロとヘイゼル、二人は其々嫌悪を示した。
「いやぁ、ヘイゼルにそんな仲の人ができていたとは思わなかった。師としては組織でも孤立気味だったのは、心配していたのよ」
はっはっはと軽い調子で笑ったリンカは、落ち着くと二人を見据える。
「ヘイゼルの言は最もだか、貴様の要望を叶えるのはこれしかない。騎士団と離れたくないという我儘を成すならば、相応の苦労を受け入れろ」
「そ、それならミズハと三人で行けば大丈夫じゃ」
「妹には敵の支部があるリリーパでの張り込みを頼もうと思っている。強襲した際、何らかのアクションがあるだろうからな」
セロの方からお願いしますねとリンカは告げ、童女は首肯した。
ヘイゼルは考える。
現在組織で荒事に動ける人員は少ない。
犯罪に手を染める組織に所属する者など、更生の余地はないだろう。
そして一人たりとも逃がしてしまえば、仲間を失った地下組織は報復に向かう危険性があった。
ヘイゼルの思い一つだけで、シップの一般住民やリリーパの生物、多数の無辜なるモノに災厄が降る可能性は否定できない。
その芽を潰す為にどうするか、聡明な彼女は既に結論を得ていた。それを否定したいだけで。
「無理ならば仕方ない。予定通り時間をかけて壊滅に」
「……やります。騎士団の皆と協力して、敵を皆殺しにします」
絞り出したヘイゼルの答えに、笑みを浮かべて彼女の師は頷いた。
「という事になりました。そのような手筈で宜しいですか?セロ」
「貴様の思い通りとなったな、リンカ。……許可する。但し、もしも失敗した場合……わかっているな?」
「脅しですかね?大丈夫ですよ」
「お前もだぞ、ヘイゼル」
矛先を急に向けられヘイゼルは目を見開く。
「元はと言えば貴様が今までの作戦を嫌だから、なんて理由でこんな話となったのだ。失敗すれば、貴様は再教育だ。死ぬ気で励め」
◇◆◇
ヘイゼルがイアペトスに降り立った同刻、ミズハはリリーパの採掘場跡エリアに居た。
連絡途絶後、蒼月騎士団のレストラン雑用として住み込み好き勝手暮らしていた彼女だったが、どうやったのか組織の指令が来てしまい、砂漠の星に訪れている。
「あー、もー!早く戻ってオレンジジュースでも飲みたいんだけど!」
フォトンで多少保護しているとはいえ、暑いことに変わりはない。
伝う汗を拭いながらミズハはある場所を目指していた。
リリーパにある地下組織の支部である。
彼女が組織から下された任務は、リリーパ支部に張り込み、何らかのアクションがあった場合制圧する事である。
それを行うには、とにかく根城の近くまで進まなくてはいけない。
通信端末よりホログラムを表示させ、惑星リリーパの地図を見て四苦八苦するミズハ。自分をしっかり見せる演技は得意だが、台本もなく考えながらする仕事はやはり苦手だ。
ウーンウーンと唸り今にも知恵熱で頭から湯気が出そうな彼女の頬に、ドリンクの入った容器が触れる。
「うひゃっ!?……っと、ありがとっ。皆も辛いのに悪いわね」
ミズハが振り向いた先には蒼月騎士団の面々が居た。彼女が組織に黙って、独断で連れてきた面々である。
どうせ自分が仕事をするのなら荒事になる、ならば人数は多ければ多いほどいい。
セロが見ていたなら決して許さない、ミズハなりに機転を利かせた救援。
それは結局の所、杞憂でも何でもなかった。
地下組織による盗掘、それによってリリーパに蠢く闇は檻を決壊せんと猛っていた。
何の変哲もなく、大きな問題が起こった過去すらない平和な船に、ヘイゼルは降り立っていた。
一般人も過ごす居住区は活気に満ち、仕事や学業に励む人達が行き交っている。
人のうねりに紛れ込み、市民と似通った服装に身を包んだ彼女は進む。近くにはヘイゼルの顔馴染みである蒼月騎士団の数名が、同じく変装し一定の間隔を空け同じ方向に歩く。
穏やかな光の隙間には得てして影がある。
イアペトスに紛れる闇。それこそがヘイゼルの、組織の、協力する騎士団員の標的であった。
◇◆◇
時間は遡り、事象は組織本部の一室より始まった。
薄暗い部屋にある豪奢な椅子に座るは長のセロ。彼女の肌を煌々と照らすホログラムには一人の女性が写っていた。上司である童女と好対照の、女性としての特徴が大きな成人女性である。
張り詰めた空気がその場には充満していたが、女性は穏やかな声色と言葉を紡いでいた。
「こちらは全ての準備が終わった、セロよ。必要な人員が来れば、じわじわと標的を瓦解することができますよ」
「その為に数か月潜って貰ったのだ……ご苦労だったな、リンカよ」
「これが我らの仕事なれば。労いの言葉は、全てが終わった後に頂戴致します」
リンカと呼ばれた女性の言葉に、フンと息を吐く。正論ゆえ返す言葉もない中で、精一杯できる返答だった。
組織が標的とした地下組織は人身売買、希少資源の横領や強奪、危険薬物の流通などオラクルの安全を脅かす、それなりの規模を持った組織であった。
リンカは自身も密売人として偽り接触。
汚い仕事に多少手を染めて信頼を獲得、どうにかして中枢を掴むまで至った。
「ミズハには流石に無理だったからな……ヘイゼルなら上手く立ち回れただろうが、騎士団の事もある」
デューマン幼女の脳裏に浮かぶは幹部クラスの少女二人の顔。
時間をかけた甲斐もあり、標的は丸裸となっていた。
後はリンカのサポートとしてヘイゼルを投入し、外縁から組織を蝕むだけであった。
偶然ではあるがヘイゼルが気紛れで加入した蒼月騎士団にミズハも接触している。
騎士団との窓口も、褐色少女が居るのならヘイゼル離脱の穴は塞がれる
先日からミズハとの連絡が取れなくなっているが、話を聞く分には騎士団の施設で鍛錬しているらしい。
ミズハに関しては泳がせてままにし、騎士団とのコネクションは彼女に任せておけばいいだろう。
脳内で結論付け、椅子に深く身体を預けヘイゼルへどう任務を伝えるか。
思考を切り替えた童女の背後、部屋の扉がゆっくりと開かれる。
ホログラム以外の光が漏れ、話し込んでいた二人はそちらに目を向ける。
立っていたのはヘイゼルその人だった。
「何の要件だ。通信中は入ってくるなと言っているであろう」
不快そうに見据えるセロ、彼女の放つ剣呑な空気を気にせずヘイゼルは二人に近づく。
「二人とも居るのね、丁度よかったわぁ」
「私とリンカに要件があるという事は……狙っていたな、この時間を」
ええそうね。悪びれず、桃色の髪を揺らして頷いた。
「ヘイゼル、久しいな。鍛錬は続けているか?」
「師匠もご健勝で」
ホログラムに向き直しお辞儀をするヘイゼル。問いに返答はなかった。
苦笑しつつリンカは彼女の目的に切り込む。
「それで、何の要件だ。貴様に伝えてある、地下組織への謀略に関する件であろうが」
「お前が騎士団に入れ込んでいるのは理解している。だが、優先度をはき違えていないだろうな。我ら組織でより重要なのは、世界の平穏を崩す邪悪を滅殺する事だ」
セロも不愉快な声色を隠そうともせず、言葉を繋ぎ畳みかける。
「まさか仕事を降りたい、という訳ではあるまいな」
「そんなわけないじゃない、私も理解してるわよ」
予想を外し怪訝な表情を浮かべるセロと何か思案するリンカ。
二人が二の句を継ぐ前に、ヘイゼルは自分の考えを畳みかけ返した。
「地下組織の崩壊、それを速攻する事は可能かしら?……私は、それでいきたい」
「……は?お前、何を言っているんだ」
間髪入れず疑問を呈したのはセロだった。通信の先に居るリンカは表情を変えず、心中を窺い知ることはできない。
「時間をかければ瓦解させられる作戦だ、今更変更して危険な賭けをする意味はないだろう」
「だけど、早めに崩壊させなければ被害者は増えるかもしれないわ。人の身柄を弄ぶ組織なんだし……」
「それはどうしても出てしまう被害だ。所謂コラテラル・ダメージという、な」
部下の提案を途中で遮り、セロは怒気を隠さず言い詰める。
普段から口を歪ませ目つきの悪い彼女の顔だが、険が濃くなり羅刹の様相を呈していた。
「大体その即殺提案も、貴様が騎士団を離れたくないという心地からだろう。違うか?」
「貴様はあの騎士団に肩入れしすぎだ。確かに悪性の組織ではないが、貴様の本来所属している組織は何処だ。我々アンジェリカではないのか。我々の使命を蔑ろにするつもりではあるまいな」
「今、騎士団はOMFっていう敵対組織とのイザコザで忙しくて」
「フン、やはり騎士団絡みではないか。いいか、我々と彼らの立場を混同するな。しっかりと線引きをしなければ、今後騎士団との関わりを絶って貰わなくてはいかん」
詰問を続けるセロであったが、彼女も蒼月騎士団に少なからず接触し、思う事があった。
任務を遂行する事が最上の価値観であったヘイゼルが、騎士団との関わりを優先する価値観を持った。
いつもの馬鹿騒ぎがきっかけとはいえ、ミズハが騎士団という新しい関わりを手に入れ組織との交信を絶った。
今まで恙なく動いていた彼女達の変化は愉快なものではなかった。
「まぁまぁ、二人とも落ち着くといい」
沈黙していたリンカが状況に切り込んでくる。
ヒートアップしていたセロと、押し負け俯いていたヘイゼルはホログラムに視線を移す。
「お前が周到に準備した任務ではないか、リンカ。お前も異論を挿むのか」
「私が主に計画し下地を作った事です。セロ、貴女よりも現状を把握しているつもりですが」
ならば私がこの中で一番状況を知っているはずです。続けられた言葉に、むぅと言葉をつき童女は押し黙った。
ヘイゼルの階級と違い、リンカやミズハが冠する組織の階級ケルベロスは、決してセロの言葉を盲目的に従うのみではない、反対意見を持ち独自に行動できる権限も持ち合わせている。ヘイゼルの階級スロンネスと、彼女の使役するサイクや数度騎士団と接触した過去のあるトリノ等は、セロの命令を聞く以外の選択肢は持ち合わせていない。
力を持つが、ミズハのように無謀でもない。リンカとはセロと対等な、組織では本当に数少ない一人であった。
「ヘイゼルの提案を容れられる作戦が一つだけあります。それは鏖殺です」
「おうさつ……?なんですか、それ」
「皆殺し、という事だな」
ヘイゼルの問いにセロが答えた。緊張が部屋に漲った。
弟子が理解したとしてリンカは口を開いた。
「地下組織はイアペトスの地下にある円形のオフィスを最深部としています。市街地のあるお店を入口とし、広大な地下通路が広がっています」
「うむ。……しかしどうしてこんなもの、アークスシップの地下に作り出せたのだ」
「リリーパの希少資源や、攫った人間を確保するのに必要だとか。まぁ、全てをシップ内で賄おうとするのは飽きれますね」
嘆息しつつ、ホログラム上に浮かぶ敵組織の地図を指さし、解説を続ける。
「最深部までは一本道となっており、大きな出口は先程の店しかありませんが、緊急脱出用の出口は至る所にあります。この多数の緊急用出口が攻略をゆっくり行う主要因ですが、鏖殺するならば問題はないという事です」
「なんで、これを最初に提案しなかったんですか?」
「私と君だけでは全員を討伐ないし確保するには手が足りないからだ、ヘイゼル」
ならばなぜこの提案をしたのだ、セロが放つ当然の疑問にリンカは予期せぬ答えを告げた。
「ヘイゼルが懇意にしている、蒼月騎士団の力を借ります」
「なっ……!?また彼らの力を借りるのか」
「皆に汚れ仕事なんか、させるわけには……」
セロとヘイゼル、二人は其々嫌悪を示した。
「いやぁ、ヘイゼルにそんな仲の人ができていたとは思わなかった。師としては組織でも孤立気味だったのは、心配していたのよ」
はっはっはと軽い調子で笑ったリンカは、落ち着くと二人を見据える。
「ヘイゼルの言は最もだか、貴様の要望を叶えるのはこれしかない。騎士団と離れたくないという我儘を成すならば、相応の苦労を受け入れろ」
「そ、それならミズハと三人で行けば大丈夫じゃ」
「妹には敵の支部があるリリーパでの張り込みを頼もうと思っている。強襲した際、何らかのアクションがあるだろうからな」
セロの方からお願いしますねとリンカは告げ、童女は首肯した。
ヘイゼルは考える。
現在組織で荒事に動ける人員は少ない。
犯罪に手を染める組織に所属する者など、更生の余地はないだろう。
そして一人たりとも逃がしてしまえば、仲間を失った地下組織は報復に向かう危険性があった。
ヘイゼルの思い一つだけで、シップの一般住民やリリーパの生物、多数の無辜なるモノに災厄が降る可能性は否定できない。
その芽を潰す為にどうするか、聡明な彼女は既に結論を得ていた。それを否定したいだけで。
「無理ならば仕方ない。予定通り時間をかけて壊滅に」
「……やります。騎士団の皆と協力して、敵を皆殺しにします」
絞り出したヘイゼルの答えに、笑みを浮かべて彼女の師は頷いた。
「という事になりました。そのような手筈で宜しいですか?セロ」
「貴様の思い通りとなったな、リンカ。……許可する。但し、もしも失敗した場合……わかっているな?」
「脅しですかね?大丈夫ですよ」
「お前もだぞ、ヘイゼル」
矛先を急に向けられヘイゼルは目を見開く。
「元はと言えば貴様が今までの作戦を嫌だから、なんて理由でこんな話となったのだ。失敗すれば、貴様は再教育だ。死ぬ気で励め」
◇◆◇
ヘイゼルがイアペトスに降り立った同刻、ミズハはリリーパの採掘場跡エリアに居た。
連絡途絶後、蒼月騎士団のレストラン雑用として住み込み好き勝手暮らしていた彼女だったが、どうやったのか組織の指令が来てしまい、砂漠の星に訪れている。
「あー、もー!早く戻ってオレンジジュースでも飲みたいんだけど!」
フォトンで多少保護しているとはいえ、暑いことに変わりはない。
伝う汗を拭いながらミズハはある場所を目指していた。
リリーパにある地下組織の支部である。
彼女が組織から下された任務は、リリーパ支部に張り込み、何らかのアクションがあった場合制圧する事である。
それを行うには、とにかく根城の近くまで進まなくてはいけない。
通信端末よりホログラムを表示させ、惑星リリーパの地図を見て四苦八苦するミズハ。自分をしっかり見せる演技は得意だが、台本もなく考えながらする仕事はやはり苦手だ。
ウーンウーンと唸り今にも知恵熱で頭から湯気が出そうな彼女の頬に、ドリンクの入った容器が触れる。
「うひゃっ!?……っと、ありがとっ。皆も辛いのに悪いわね」
ミズハが振り向いた先には蒼月騎士団の面々が居た。彼女が組織に黙って、独断で連れてきた面々である。
どうせ自分が仕事をするのなら荒事になる、ならば人数は多ければ多いほどいい。
セロが見ていたなら決して許さない、ミズハなりに機転を利かせた救援。
それは結局の所、杞憂でも何でもなかった。
地下組織による盗掘、それによってリリーパに蠢く闇は檻を決壊せんと猛っていた。
第一作戦リザルト
Result:Aランク
組織のボスに時間稼ぎされ、自身の脱出と根拠地の自爆を許したが、
構成員の逃亡を阻止し速やかに抹殺できたこと、
一般市民は全員救助できた事は成功となる。
シップ「イアペトス」における崩落事故の報告書
新光歴2XX年XX月XX日、アークスシップ「イアペトス」の市街地区画一部にて小規模の崩落事案が発生。
被害の起きた地区は古いものであり居住者や商業地区が別の場所に移転した無人区であった為、シップに情報を登録された住民やアークスの被害は奇跡的ではあるが皆無だった。
物的被害は廃棄されたビルや集合住宅の倒壊、当地区の地面陥没、地下区域の崩落。
修復には数カ月以上を要する計算だが、現在は未使用状態であったビル等の再建を行うか協議中。
崩落の原因は地下区画の爆発によるものと断定しています。
区画付近にて保護された一般市民の言質により、中心点の部分には犯罪組織の根拠地があるものと判明。
崩落が収まった後の現場調査で通信設備や組織運営に使用していた資料、組織が取引に使用していたと思われる薬品、構成員の遺体が発見された。
爆発の要因は爆薬を用いたものであり、フォトン反応による証拠無し。
構成員の死因は崩落によるものは少なく、銃創や裂創が原因のものが多く崩落前に死亡へ至ったものが多い。
地下拠点周辺のフォトン反応は微々たるものであった為、犯罪組織の内部抗争による拠点破壊が崩落の主因であったと推測される。
今後の対応は消息不明である犯罪組織の指導者捜索と流通済みになっている危険薬物の摘発は継続して実施。
イアペトス含めアークスシップの風紀を律し犯罪組織の取り締まり体制強化に努めるよう戦闘部、総務部と協議を重ねる事とする。
アークス統括機構情報部第十三席 フェリックス
◇◆◇
「奇跡的か……。全く、骨の折れる奇跡だったな」
リンカから渡された報告書を投げ、ソファに埋まる組織の長は嘆息した。
幼き主君の見せる老成した動きにリンカは苦笑で答える他なかった。
「しかしセロのお陰で無用な混乱をアークス本部に嗅ぎ付けられずに済みました」
「その為に潜り込ませたネズミだからな。フェリックスも、よくもこんな白々しい報告を」
指先でプリントを撮んでペラペラと揺らす。
一寸遊んだ後に指を話し、ひらひら漂うそれに見向きもせずセロはリンカに向き直した。
「それで、この組織は崩壊させたがこの後はどうする」
「強襲で動転したのか、組織のリリーパ支部のほうで本命の動きがありました。そちらの継続調査を行おうかと考えています」
「本命の動き……まさか、奴らか?」
普段から鋭いセロの視線が、更に細められ紫髪の女を射抜く。
「は……その可能性はあります」
目を伏せたままリンカが応答した。刹那、小さなセロの拳が自身の力で更に小さく握り締め上げられる。
「堕天者共が牙を剥きおって」
「ミズハや蒼月騎士団の者達がダーカー化した地下組織のボスと対峙している最中、全滅した組織の支部から危険薬物を運び出した車両を間諜が確認しました。そのまま地下坑道区域に潜っていったようです」
「潜った……?」
「車両にドリルがついて、こう、砂の中へ」
リンカが両手で三角形を作り説明する姿に毒気を抜かれ、セロは微妙な顔で話を急かした。
手は広げられ早くするようジェスチャーを送っている。
「ともあれ、坑道区域に突入して状況確認は必要かと存じます」
「ならば早いほうがいい。リンカ、お前が調査してこい」
「は、私がですか?当地に居るミズハや、ヘイゼルのほうが適任では」
「ミズハは深入りしすぎるかもしれん。ヘイゼルは騎士団との約束もある……今は、あまり無茶できん」
「その約束、守る気だったのですね」
「殴るぞ貴様」
セロの怒気を薄く笑って受け流しながらリンカは一礼をする。瞬間、セロの執務室から姿が消えていた。
「早いな。……やれやれ」
再び溜息を吐くと、セロは窓を見やる。庭にある木をぼんやり眺めているうちに、瞼が無意識にゆっくりと、確実に閉じていった。
柔らかな日差しと静寂の中で規則的な寝息だけが聞こえている。
組織のボスに時間稼ぎされ、自身の脱出と根拠地の自爆を許したが、
構成員の逃亡を阻止し速やかに抹殺できたこと、
一般市民は全員救助できた事は成功となる。
シップ「イアペトス」における崩落事故の報告書
新光歴2XX年XX月XX日、アークスシップ「イアペトス」の市街地区画一部にて小規模の崩落事案が発生。
被害の起きた地区は古いものであり居住者や商業地区が別の場所に移転した無人区であった為、シップに情報を登録された住民やアークスの被害は奇跡的ではあるが皆無だった。
物的被害は廃棄されたビルや集合住宅の倒壊、当地区の地面陥没、地下区域の崩落。
修復には数カ月以上を要する計算だが、現在は未使用状態であったビル等の再建を行うか協議中。
崩落の原因は地下区画の爆発によるものと断定しています。
区画付近にて保護された一般市民の言質により、中心点の部分には犯罪組織の根拠地があるものと判明。
崩落が収まった後の現場調査で通信設備や組織運営に使用していた資料、組織が取引に使用していたと思われる薬品、構成員の遺体が発見された。
爆発の要因は爆薬を用いたものであり、フォトン反応による証拠無し。
構成員の死因は崩落によるものは少なく、銃創や裂創が原因のものが多く崩落前に死亡へ至ったものが多い。
地下拠点周辺のフォトン反応は微々たるものであった為、犯罪組織の内部抗争による拠点破壊が崩落の主因であったと推測される。
今後の対応は消息不明である犯罪組織の指導者捜索と流通済みになっている危険薬物の摘発は継続して実施。
イアペトス含めアークスシップの風紀を律し犯罪組織の取り締まり体制強化に努めるよう戦闘部、総務部と協議を重ねる事とする。
アークス統括機構情報部第十三席 フェリックス
◇◆◇
「奇跡的か……。全く、骨の折れる奇跡だったな」
リンカから渡された報告書を投げ、ソファに埋まる組織の長は嘆息した。
幼き主君の見せる老成した動きにリンカは苦笑で答える他なかった。
「しかしセロのお陰で無用な混乱をアークス本部に嗅ぎ付けられずに済みました」
「その為に潜り込ませたネズミだからな。フェリックスも、よくもこんな白々しい報告を」
指先でプリントを撮んでペラペラと揺らす。
一寸遊んだ後に指を話し、ひらひら漂うそれに見向きもせずセロはリンカに向き直した。
「それで、この組織は崩壊させたがこの後はどうする」
「強襲で動転したのか、組織のリリーパ支部のほうで本命の動きがありました。そちらの継続調査を行おうかと考えています」
「本命の動き……まさか、奴らか?」
普段から鋭いセロの視線が、更に細められ紫髪の女を射抜く。
「は……その可能性はあります」
目を伏せたままリンカが応答した。刹那、小さなセロの拳が自身の力で更に小さく握り締め上げられる。
「堕天者共が牙を剥きおって」
「ミズハや蒼月騎士団の者達がダーカー化した地下組織のボスと対峙している最中、全滅した組織の支部から危険薬物を運び出した車両を間諜が確認しました。そのまま地下坑道区域に潜っていったようです」
「潜った……?」
「車両にドリルがついて、こう、砂の中へ」
リンカが両手で三角形を作り説明する姿に毒気を抜かれ、セロは微妙な顔で話を急かした。
手は広げられ早くするようジェスチャーを送っている。
「ともあれ、坑道区域に突入して状況確認は必要かと存じます」
「ならば早いほうがいい。リンカ、お前が調査してこい」
「は、私がですか?当地に居るミズハや、ヘイゼルのほうが適任では」
「ミズハは深入りしすぎるかもしれん。ヘイゼルは騎士団との約束もある……今は、あまり無茶できん」
「その約束、守る気だったのですね」
「殴るぞ貴様」
セロの怒気を薄く笑って受け流しながらリンカは一礼をする。瞬間、セロの執務室から姿が消えていた。
「早いな。……やれやれ」
再び溜息を吐くと、セロは窓を見やる。庭にある木をぼんやり眺めているうちに、瞼が無意識にゆっくりと、確実に閉じていった。
柔らかな日差しと静寂の中で規則的な寝息だけが聞こえている。
- 最終更新:2017-05-28 01:50:54